マーケティングの定義では、広告コピーの役割は「新規市場の開拓」であると言われています。広告コピーがどう新しい市場を開拓するのかは、ちょっと分かりにくいかもしれません。そこでちょっと、古い話を。
昔、「奥様は魔女」というアメリカのTVドラマがありました。ヒロインで魔女のサマンサの夫、ダーリン・スティーブンス氏は、広告コピーを考えるコピーライターでした。ドラマの中でダーリンは、クライアントや上司の前で、広告のラフスケッチを見せながら、「マッチョな貴方にぴったり、この煙草」というような、かなりぱっとしないキャッチフレーズを披露します。それがボツになったり、大絶賛だったり。当時は、シット・コムだからわざと陳腐なキャッチフレーズにしているんだろうと思っていましたが、その後、自分がコピーライターになってみると、ある意味正しい姿だったことに気がつきました。
アメリカの企業では株主の力が絶対で、社長は雇われです。そして株主は、自分の資産である会社でギャンブルをされるのを嫌います。新製品を開発し、新たな製造ラインを組むなどもってのほか。もし業績が下がったら現経営者を首にし、商品は今のままでもっと売って見せると売り込んでくる者に経営を任せます。そうして着任した新社長が、開発研究も設備投資もなしで業績を上げるには、広告キャンペーンしかありません。ここでいう業績とは、売り上げではなく市場シェアの拡大です。
例えば煙草メーカーのシェアが、東部と西部できっちり五分五分だったとします。西部に強い会社は、東部の市場を分析し、東部にもカウボーイのような男らしくてマッチョなライフスタイルを好む層がいるのではないかと考えます。それが東部の五分の一なら、その層に向けて、貴方にふさわしいのはむしろわが社の製品というメッセージを送る。それによってシェアの比率を1対1から6対4に上げる。そうなれば商品そのものの露出頻度が上がって、認知度が高まる。「それ、最近よく見かけるね」というやつです。また、さらなる量産化でコストが下がり、利益も増大する。ダーリンの言ったことは「東部市場を喫煙者の嗜好で細分化(セグメント)し、その中の男らしさを嗜好する人々の層をいただきましょう」という提案だったわけです。
昔ゼロサム社会という言葉が流行りました。黙っていてもパイが大きくなっていった経済成長期と違い、人口は減り、税金は増えて可処分所得が減り、さらには、スマホが登場して固定電話はもちろん全盛を誇ったテレビゲームまで脅かすなど、異業種・異ジャンル商品までもがライバルとなる現代は、ゼロどころかマイナスサム社会かもしれません。その中で、きっちりシェアを確保・拡大したいと思うなら、一度お近くのコピー・ライターに声をかけてみてはどうでしょう。