画家か漫画家になりたかった僕は、あまり本も買ってもらえなかたが、毎月「冒険王」とか「少年キング?」とか言うような分厚い月刊漫画本を買ってもらっていた一つ年下の近所の床屋のクニちゃんの所で読んだ。彼の家は田舎には珍しくハイカラでバターを塗った食パンを食べていた。彼は天気の良い日はいつも庭先の木陰の大きな石に腰掛けて食パンをかじりながら漫画を読んでいて、僕は発売日の翌日にクニちゃんの庭に遊びに行くことにしていた。ほぼ読み終わったであろう漫画を庭の石に座って読ませて貰いたいからだ。床屋の店の中にはこれまで買った漫画雑誌がたくさん並んでいた。彼とは石合戦の喧嘩仲間でお互いに額に傷を負ったのに漫画ではなぜか和解していた。もう一つの興味は気になって仕方が無かった食パンだ。どんなに美味しいんだろう?と、或る日、鬼のように怖かったクニちゃんのおばさんが僕にその食パンを焼いてくれた。バターをたっぷりつけて。田舎の農協にはバターも食パンは売っていなかったから、初めての衝撃の味だった。喧嘩相手のクニちゃんの床屋が無かったら、あの鬼のおばさんが居なかったら漫画もバター味の食パンも、田舎暮らしの間知らずに居たかもしれない。もう一つの衝撃と言えば、灼熱の炎天下の大阪で人生初めてのコーラを買った。それまでラムネやサイダーは知っていたが黒い飲み物「コーラ」を初めて口にした時は驚愕。アメリカ人は、こんな、とんでもないモノを飲んでいるから、あんなヘンテコリンな赤ら顔になるんだなァと。二度と飲まないと言いながらいつしか中毒みたいになっていた。誰かが「コーラは麻薬だ」と言っていた。販売のための世界戦略で?コカインでも入れたのか?だが、やたら甘くなった今はやめている。きっとコカインもやめたに違いない。?