世の中にオープン価格というものがなく、すべての商品に定価があった頃の話ですので、もう時効(?)だと思いますが。
当時の清涼飲料は缶入りが中心で、1個100円でした。そんなとき、全メーカーが一斉に定価を110円に値上げする旨、地元の食品小売チェーンに通知してきました。しかも、店頭売価を値上げしてくれるなら、仕入れ価格は据え置くとまで言ってきました。
これを聞いた地元チェーンのトップは、怒り心頭。露骨なカルテルなだけでなく、ワイロまがいのことをし、売価に口出しするなど、背後に大手小売チェーンがいると考え、値上げしない旨の広告を出すよう指示が出ました。
値上げしないなら黙って据え置けばいいものを、広告まで出せば、日本中の清涼飲料メーカーだけでなく、多くの食品小売チェーンも敵に回します。それで広告担当から、どうしようと相談が来ました。
もしそんな広告を出して、一斉に商品を引き上げられたら大ダメージですし、どんなイヤがらせを受けるか分かりません。なにより私は、そのときでさえメーカーとの対応で参ってる商品課長が倒れたり、辞めたりすれば、ライバルにとって大きなポイントになると考えました。そこで、新聞掲載日にあわせたA.B二つの案を作り、青焼きまで起こしておくことにしました。
Aはトップの言うとおり、値上げしないという広告ですが、
Bは値上げするというもの。ただし、値上げ分に年間販売個数を掛けた金額を原資として、空き缶のリサイクル施設を開設・維持できるかどうか試算してもらい、その上で以下のようなコピーを掲載しました。
まず、清涼飲料各社からの申し入れにより値上げすることになったお詫び。これはカルテルへの当てこすりです。そして、値上げはするが、本来物流コストの削減努力で吸収できるので、差分で空き缶のリサイクル施設を作るつもりである。今後とも当店を….
という内容です。そして商談の場で、主にBをちらつかせてもらうことにしました。
背後にいるとされた大手小売チェーンにすれば、それをきっかけにリサイクル施設が一般化するようなことになれば、値上げで得られたであろう利益がパーになります。清涼飲料メーカーだって当然負担を強いられます。しかも今後は、いつ何時Bを出されて、利益を人質にされるかもしれません。それ以上の圧迫は危険と判断したのでしょう。
案の定、しつこい申し入れはパタリと止んだので、予定通りAの広告を出しました。内容は国内の主要な清涼飲料の写真をずらっと並べて、値上げしないという挑発的なものでしたが、反発もほぼなし。せいぜい写真の無断使用にクレームがついただけでした。
その後、地元チェーンはPBの清涼飲料に力を入れるようになりました。