(53)インターネット文化塾 「トラックバック」

ブログは単なる日記ではありません。文章や画像を表示するだけでなく、ネット上のコミュニケーションを助ける様々な機能があります。そういうブログ独自の機能としては、前回説明した「RSS」の他に「トラックバック」があります。
トラックバックとは、「他のブログに対して、自分のブログへのリンクを張ってもらう機能」です。言葉にすると簡単ですが、ニュアンスがわかりにくい機能です。また、ブログの誕生当初は「ブログとはトラックバックのこと」とまで言われていたのですが、最近は使われなくなりました。

具体的には、文化人などのブログの文章を引用して自分のブログ記事を書いた時に、引用元のブログに対して「ここの文章を引用したので、自分のブログにリンクを張ってほしい」と要望を出し、相手がリンクを作る、この作業を簡単に行なうのがトラックバック機能です。なぜそんなものが必要なのか、危険じゃないのかと思う方には、ブログの歴史を説明しなければなりません。

2001年、アメリカで同時多発テロが勃発しました。人々はニュースだけで満足せず、自分の見聞きしたことをネットにアップしたり、探し求めたりしました。多くの人が正しい情報を探し回っている中で、新しい情報を一刻も早く広めなければならない。そこでトラックバックで引用しあった情報発信者同士を結びつけて、誰もがより広範囲から情報をたどってまわりやすいようにしました。いわばネットユーザーの必死の思いから生まれた機能だったのです。

今同じようなことになったら必死に検索をかけるでしょうが、当時は検索エンジンが今ほどタイムリーな情報を提供できませんでした。また当時は、信頼のおけるサイトのリンク集から新しい情報源を見つける、いわゆるネットサーフィンがまだまだ情報収集の主流でしたから、いわば超特急でリンク集のネットワークを作るトラックバックが、重視されたわけです。
ただし、現在においても、検索エンジンやSNSは、所詮は特定企業の提供するサービスです。ネットリテラシーから言えば、どんなバイアスがかかっているか分かりません。より生の体験談、よりしっかりした権威からの発表や意見が必要というときには、信頼のおけるサイトからのリンクをたどるほうが確かです。検索エンジンを使って、結局メディアの発表を読むだけでは、何のためのネットかわかりません。その意味ではトラックバックの精神は今でも生きています。

ではなぜ廃れてしまったかというと、モラルやセキュリティの問題が起こったためです。何しろ何百万アクセスもあるような有名人のブログにトラックバックすると、たちまち自サイトのランクがあがり、相当数のアクセスが発生します。SEO利用、広告への誘導や危険なウィルスの配布など、さまざまな問題が発生しました。トラックバックは先方の承認がなければリンクされませんが、当初は無条件につなげてあげるのがいわばマナーだったのが、すぐにチェックが厳重になったり禁止になったりしました。

現在、WORDPRESSのような代表的なブログには、デフォルトではトラックバック機能がついていません。プログラムをいじったり、プラグインをインストールしないといけないようです。いささか乱暴な機能だったのでなくなるのは仕方ないですが、情報収集が検索エンジンやSNSに頼りっぱなしというのは、ちょっと寂しい気もします。

カテゴリー: インターネット パーマリンク

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